そしてテレビの独占は終わった 2
承前
僕は家に帰ると、おもむろにパソコンのディスプレイの電源を入れる。
パソコンは基本的に起動させっぱなしだ。P2Pソフトを起動させているからだ。
違法ソフトは原則やりとりできない。僕がやりとりしているのはそんなちゃちなものではない。
ひとつは、完全匿名のBBS。サーバーを中継することなく暗号化したデータをやりとりすることで、完全に匿名で発言できる。
悪口を書く人間もいるが、そういう質の悪い書き込みは流行らない。僕は別のネット上の人格として交友を広げている。
もうひとつは、二次創作だ。
web上でも受け取れるが、データ量の大きなものはp2pの方がサーバに負担がかからず(サーバがないのだから)良い。
違法ソフトや違法コンテンツは見つかったとき面倒なので、除外するようあらかじめ設定してある。
違法コンテンツや違法ソフトそのものをやりとりする必然性がなくなったのも大きな理由だ。
違法コンテンツがなくなった理由はこれから話す。
ディスプレイはすぐ明るくなる。23インチの液晶ディスプレイは作業をするにも視聴をするにもちょうど良い大きさだ。
おもむろにタブブラウザを更新、情報を得る。
主なニュースは帰りの電車で確認したので、目新しいものはないようだ。
巡回先のブログを閲覧し、はてなブックマークでメモをし、面白そうなサイトを探る。
小一時間それらを見た後、一度伸びをして、僕は席を立ち、コーヒーを淹れた。
腰を下ろし、再びディスプレイに目を落とす。
今度は、新着動画のチェックだ。
RSSリーダーを見ながら、人気の動画を見る。
一つは、アニメやドラマの続きだ。好きなアニメが配信されているかを確認。ブックマークをつけておく。
もう一つは、新規のアニメだ。時間がないので、どれを見るか見定めるため、評価やコメントで並び替える。
2009年頃から、アニメを中心にコンテンツがテレビから離脱した。
ニコニコ動画をはじめとするネット動画サービスが、利潤を追求できるだけのサービスとして確立したからだ。
これまで電波利権を一手に握り、既得権益として制作費の半分近くを奪っていたテレビ業界から、もっと安い価格でコンテンツを提供できる動画サービスに政策の重点が移っていった。当然の流れだった。
「アニメーション産業の現状と課題」経済産業省平成15年6月より
今は違法投稿などではなく、制作会社がネット動画サービスの提供する供給会社を通してアニメを直接配信している。
供給会社は広告を募り、制作費を捻出する。テレビの既得権益から逃れられているので、制作費は若干安くなっている。
また、アニメ自体の広告を打つ必要もないので、広告費も安く抑えられている。
広告は動画サイトのあちこちにバナーとしておかれている。
お勧め商品という形でも置かれているし、目立たない形のブログ記事として配置もされている。自動車などの高価な商品は、雰囲気作りが大切だ。しゃれたバナーで、車にでも乗ってみようか、と言う気にさせる。
動画の途中でCMが入ることもあるが、そのとたんに「うざい」「KY!」「ぜってー買わねー」という文字が弾幕になって流れる。あまり評価は良くないようだ。
コンテンツが番組表から独立して、そのものとして流通する下地は以前からあった。
DVDレコーダーで録画している人間にとって、番組表は録画予約の際にしか使わない。
そして、自由な時間に溜まったコンテンツを視聴していた。
事実上、「番組」は崩壊していた。
僕は動画の一つを見ることにした。今期は楽しみにしているアニメだ。
動画が始まったとたん、「ネ申」「キタ━━━━━━━━m9( ゚∀゚)━━━━━━━━!!」などとコメントが流れる。
このアニメが面白いことはわかっているので、コメントは消して視聴する。
今回もなかなかの出来だ。キャラも生きている。
だが、若干塗りが甘いところがあった。「塗りが甘い」コメントを入れる。
後でコメント入りで視聴したら、「塗りが甘い」が弾幕で流れていた。
みんな感想は一緒のようだ。
制作会社はコメントを逐一見ているから、現場では反省点として上がるだろう。
この距離感が、大きく変わったところだ。
非常に面白かったので、コンテンツ購入サービスで、コンテンツを購入することにした。
以前のようにDVDで売る必要が無く、その分パッケージ料や広告料が減り、購入層が増えたため、コンテンツは非常に安く購入できるようになった。
もちろん無料で何度でも見ることが出来る動画だが、購入したコンテンツの方が画質が良いし、特典もついてくる。
1話300円ほどで購入できた。初回特典がついてきた。これはうれしい。
次に新しいアニメを見ようと思い、ネットの反響を見る。
ざっと見る限り、反応は二分されているようだ。
原作があるので、原作ページに飛ぶ。
amazonで、「試し読み」をする。
以前は数頁しか見れなかったようだが、最近は1巻まるまる試し読み出来ることも少なくない。
数頁では評価のしようがないこと、メディアミックス展開していくことで十分元が取れることがわかったためだろう。
数話読んでみる。
お、これはヒットかも。
アニメを見ることにした。なかなか声優もマッチしていた。
「広橋涼は神」と100回コメントを入れておいた。
ドラマは、あまり食指が動かない。
「TRICK」のスタッフが作ったドラマは面白いので、それだけは見ている。
とりあえず、今回のアニメの感想をブログと掲示板にpostしておく。
アニメへの商品紹介リンクを張っているので、アフィリエイトで若干の収入がある。
アフィリエイトには賛否両論あるので、僕のブログの読者から思わしくない反応があれば止めようと思っている。
ちょっとした小遣い稼ぎと、お勧めアニメのお知らせだ。現在のところ評判は悪くないので続けている。
テレビがなくなってから数ヶ月が経つが、不自由を感じたことはない。
テレビのジャンルは主に「スポーツ」「ニュース」「ドキュメンタリー」「ドラマ」「アニメ」「映画」「バラエティ」などがあるが、全てコンテンツで提供されているのでわざわざ時間を合わせてみる必要がない。
バラエティは間を持たせるためには良いが、一人で見る分には必要がない。
面白いものはコンテンツで見ればよい。時々、特番をやるのでそれは見ている。
ドキュメンタリーで良質の作品があった。
掲示板の評価も良いようだ。
ケータイに転送しておく。
最近は100GBまで入るシリコンチップが開発され安価で流通している。
事実上無制限だが、それほど入るものではない。
明日の通勤電車の中で見ることにする。
今日はもう寝よう。
先日実家に帰ったとき、久しぶりに「テレビ」を見た。
バラエティだった。夕食の時に一緒に見た。
お笑い芸人がアクションに挑戦していた。
家族みんなでゲラゲラ笑った。
テレビ無しで茶の間を囲むのは、言葉の接ぎ穂が無くてなかなか難しい。
団塊の世代には、まだまだテレビが必要なのだろう。
これはこれでよいのではないか、僕はそう思った。