アジアの次にグローバル資本が労働力を求める国はどこか?
「グローバル化です。世界がフラット化します。安い賃金の労働者なんて世界中どこでもいます。競争に乗り遅れるな!コモディティ化するな!」と煽る人たちがいます。
「日本の賃金は高すぎる。だから国外に出るのは当然。中国の賃金が高くなったらベトナム、ラオス、タイに移せばいい。その後だっていくらでも賃金の安い国はあるんだ。そういう人たちとの競争なのです*1」とか。
でも、そんなことないんだけれどね。
中国製品輸入に反対する……労組の集会で参加者が着ていたおそろいのTシャツも、実は中国製だった。
これは、ユニクロの反対集会ではない。
というか、日本ではない。
アフリカだ。多分南アフリカの話だと思う。
「経済大陸アフリカ」のp.48より。
アフリカの賃金は、実は高い。
同著者によるこちらの記事
「労働力の質をどう上げるか」
南アフリカを除く地域の製造業の平均賃金は年2474ドルと、中国(504ドル)の5倍近い。2000年当時の統計なので、この差は縮まっている可能性はあるが、なぜアフリカの賃金はそんなに高いのか。からくりは、アフリカの物価高にある。農業の生産性が低いため収穫量が上がらず、食糧価格が高止まりする結果、賃金水準を押し上げているのだ。このため、失業率が高いのに賃金が下がらない、というジレンマが起きる。
南アフリカの、2008年の製造業の平均賃金は年12,680ドルと、中国の25倍以上だ。(同書 p.136)
アフリカは、食料輸入大国だ。
食料が高いため、物価が上がり、賃金が上がらざるをえない。
日本の穀物貿易輸入量は年間2,500万トン、世界一の穀物輸入国で、世界の穀物貿易総量の8%に達する。
しかし、アフリカ全体の輸入量はそれをはるかに凌駕し、世界の穀物貿易総量の15%を超えている。(「経済大陸アフリカ」 p110, 114)
アフリカは人口に対する作付面積は、アジアなどよりも大きい。
農業発展の潜在性はある。が、実現しない。
というのも、農業発展の誘引が働きにくいからだ。
一言で言えば、「儲からない」。
「途上国の農民は伝統に固執して生産性を上げない」は間違っている。第三世界の農民はむしろ積極的に新しい作物や農法を試している。彼らが貧しいのは支払われる対価が安すぎるからだ。
(「なぜ貧しい国と豊かな国が生まれたのか」 p.20)
先進国、例えばアメリカのような農業の発展は、
- 農業の機械化
- 耕作地の土壌の改良などによる面積あたりの収穫量の増加
- 輸送路の整備
などがなければ成り立たない。
が、アフリカは機械化・土地改良・輸送路の整備はコストばかりかかって儲からず、投資するのも人件費のほうが比較効率がよいため、機械化や収穫増加などへのの資本のインセンティブがまったく働かない。
そして十分な開発が行われないまま、ここまで来てしまった。
今、アフリカの穀物輸入を支えているのは主に資源の輸出だ。
都市化が進み、儲からない農業に従事する人々は更に少なくなっている。
逆に、中国の賃金が安かった(今急上昇中)のは、第二次世界大戦後の農業開発が十分に行われ、作付面積も、面積あたりの収穫量も大きいから、食料が安く手に入るからだ。
アフリカの労働コストはとても高いのである。中国企業はインフラ建設を低い費用とみじかい工期で受注しているから、残業と休日出勤にたえられる労働者でなければならないし、中国からいれた機材の中国語マニュアルを読めなくてはならない。現在アフリカの現場においてもっとも安い給与で働いている大卒技術者はおそらく中国人であろうと思われ、同じ仕事にアフリカ人をあてようとすればより高額を用意しなければならない。
……アフリカの政府がよく口にする「アフリカには低廉で豊富な労働力がある」という言辞のほうがよほど現実を無視した”誇大広告”であって、アフリカ諸国の労働市場の現状は中国のみならず世界の企業のよく知るところだ。
(「経済大陸アフリカ」 p47-48)(強調筆者)
アジアの次にグローバル資本が労働力を求める国はどこか?
それは、増大する都市人口を十分に満たせるだけの安価な食料を調達できる国や地域だが……
安価で潤沢な食料生産を前提に「低賃金」がもたらされているけれど、人口の増加、都市の拡大に食料生産は追いつけていないわけで。
このままではアフリカは更なる「農業輸入国」に拡大していくだろうし、それは世界の食糧危機につながりさえするよう。
アフリカでの食料自給の向上こそが、「待ったなし」の課題なのだそうです。
アフリカで「教育の行き届いた、安い労働力」が欲しかったら、インフラの整備と、農業の機械化への後押しと、政府に変わってそれらを推し進めている企業のバックアップなどが必要じゃないかな、と、本書を読んで思いました。
*1:sonja-ne