問題のほとんどは解決されないほうがいい
ある人が、対人関係ですごく悩んでいた。
とてもとても悩んでいた。
そして、その愚痴を「相談役」である友人にこぼしていた。
よく愚痴をこぼすので、「愚痴を言う人」と呼ばれていた。
とにかく「困った人」なのだ、と、「愚痴を言う人」である彼はいう。
「困った人」は、とにかく言葉が通じず、ひとりよがりで、周りに迷惑ばかりをかけているんだ。
けれど、変に狡猾で、意見しようものならどんなしっぺ返しが来るかわからない。手の出しようがないんだ、と彼はいう。
「愚痴を言う人」から悩みを何度も聞かされていた「相談役」の友人は、その「困った人」とも友人だった。
友人同士がいがみ合っているのはつらいことだ。
それに、確かに「愚痴を言う人」の愚痴の中には、「困った人」が直すべき点もある、と思った。
あるとき、一念発起して、「相談役」の友人は、「困った人」と率直に話をした。
少し周りに怒り過ぎではないか?
周りはあなたに気をかけている。
あなたはひとりではないし、周りはあなたを心配し、一緒にがんばろうと思っている。あなたは一人で責任を抱え込む必要はない。
あなたが一人で抱え込むことで、あなたを「話が通じず、自分で全部決める人だ」というふうに捉えているひともいるんだよ。
そういう悲しい行き違いが起きているんだよ、と。
そう伝えた。
「困った人」は、冷静にその話を聞いた。
そのあと、自分がいかに困っているかを話し、その長い話をすべて聞いてもらった。
長い長い話を、「相談役」の友人はじっくり聞いた。
長い長い話が終わったあと、「困った人」はポツリと言った。
「たしかに自分にも直すべき点がある。自分一人で抱え込む傾向もある。周囲は頼りないとも思うけれど、信頼することが自分の課題。がんばってみる」
しばらくして、件の友人は「困った人」についてあまり愚痴を言わなくなった。
そして、今度は家族によって、自分がいかに抑圧され、人生をないがしろにされているかを切々と語った。
「率直に話してみたらどうだろうか?」と「相談役」の友人は言った。
「ムリムリ。変わるわけ無いよ。」そう「愚痴を言う人」は言った。
「うちの父は、とにかく言葉が通じず、ひとりよがりで、周りに迷惑ばかりをかけているんだ。
けれど、変に狡猾で、意見しようものならどんなしっぺ返しが来るかわからない。手の出しようがないんだ」
そう、「愚痴を言う人」は興奮しながら言った。
「相談役」の友人は、長い長い愚痴を聞いたあと、少し考えて言った。
「実はね」
そして、「困った人」が変わったこと、率直に話したことがその契機になったみたいであること、率直に話してみれば変わることもあるし、自分が話してもいい、ということを伝えた。
愚痴をこぼしていた人は、話を半分まで聞いていた。
そして、激怒した。
なんて余計なことをしてくれたんだ、と。
ふざけんな、と。
勝手なことをするな、と。
でも、「困った人」は変わったでしょう?そう聞くと、「愚痴を言う人」はますます興奮して金切り声を上げ始めた。
「それが余計なことなんだよ!いい気になってるんじゃねぇよ!人をコケにしやがって。感謝しろってか?ナメんな、だれも頼んじゃいねぇよ!馬鹿にしやがって。ふざけやがって。」
そういう反応が来ることは、「相談役」の友人にはわかっていたから、彼の興奮が収まるのを待っていた。
そして、残念そうにひとこと言った。
「じゃあ君は、状況が変わるのが嫌なんだね?」
「愚痴を言う人」は黙っていた。
「では、この話は終わりにしよう」
そう「相談役」の人が言うと、慌てて「愚痴を言う人」は言った。
「いや、そうじゃない。聞いてもらえてすごく助かるんだ」
「相談役」の人は、これを言ったら終わりだな、と思いつつ言った。
「つまり、聞いて欲しいだけなんだね?」
「愚痴を言う人」は黙った。
そして、ものすごく不機嫌な顔になった。
その顔は、自分を「被害者」だと認識している人が、よく見せる表情だった。
その後、「愚痴を言う人」は「相談役」の友人を避けるようになった。
悲しい事だ、と「相談役」の友人は思った。
けれど、たぶん「愚痴を言う人」は、2つの行動のうちどちらかを取るだろうと思っていた。
ひとつは、激怒したことを謝り、その後何事もなかったかのように愚痴を言い続け、「相談役」の友人の時間を容赦なく奪い続けること。
もうひとつは、もう「相談役」の友人には愚痴をこぼさない、ということ。
「愚痴を言う人」は、代わりになる相手を見つけたら、「相談役」の友人のことをすっかり忘れてしまうか、「相談役」の友人がいかにひどい人間かを愚痴るのだろう。
かれは、とにかく言葉が通じず、ひとりよがりで、周りに迷惑ばかりをかけているんだ。
けれど、変に狡猾で、意見しようものならどんなしっぺ返しが来るかわからない。手の出しようがないんだ、
と、こんなふうに。