心の災害派遣
東日本大震災のとき、ほとんどの被災者は、自衛隊の活動に感謝してくれた。しかし、一部の人々は、自衛隊員にも辛辣な言葉を浴びせた。自衛官が、”お上”の一部でもあるからだ。
上司が調整から戻ってくるまでの間、車の横で待機していた隊員が「おまえら、なにをボーッとしているんだ」と罵倒されたり、水を運搬した隊員が、「もう水はいい、ビールを持ってこい」と怒鳴られたり。
冷えた缶詰のラベルに「赤飯」(腹持ちがいいので、赤飯の缶詰が結構あるのだ)と書かれていたのを見て、「おまえたち、自分たちだけいい飯を食って。なにがめでたいんだ」と詰め寄られた隊員もいる。
隊員は、「なんとか被災者のためになりたい」と純粋な思いを持っている。その分、その被災者に罵倒されたとき、たいへんに傷ついてしまう。
そんな隊員にカウンセリングをするときは、この”惨事の後のイライラ”について説明する。
「イライラは症状である。イライラをぶつけることによって、悲しみに直面しないで済んでいる。君は、その人になにか言い返したのか」
「いえ、なにも言わずに、黙って耐えていました」
「それでいい。われわれにイライラをぶつけることによって、その被災者は他の人を攻撃せずに済んだかもしれない。悲しみを一瞬忘れることができたかもしれない。君が苦しい思いをこらえたことには、意味がある。君は、『心の災害派遣』をしたんだ」
「平常心を鍛える」下園壮太(p151-152)
特定の組織を美化するつもりではなく、単に自分にも同じようなことがあって、無かったのは、こういうフォローだった。
沁みた。