reponの忘備録

「喉まででかかってる」状態を解消するためのメモ

「まおゆう魔王勇者」を見て、フリードリッヒ2世とアル・カーミルの話が思い浮かんだ

「待っていたんだ。ずっとずっと待っていた。君が現れるのを。ずっとずっと楽しみにしていた、君と言葉を交わすのを。」
(アニメ「まおゆう魔王勇者」第1話)

まおゆう魔王勇者」を、毎週楽しみに見ています。


異なる種族が、異なる思想信条を持って戦争を行なっている中、その中心人物どうしが意思を疎通し合ったという稀有な状況を見ると、「玉座に座った最初の近代人」と呼ばれたフリードリヒ2世について、以下の描写を思い出さずにいられません。

傷癒えたフリードリッヒ(2世)は1229年、破門の身のまま再び十字軍の先頭に立った。
フランク(ヨーロッパ人)の皇帝来るの報に、当時、聖地エルサレムを治めていたアイユーブ朝のスルタン、アル=カーミルは様々な情報を収集して仰天した。
なんとこのたびのフランクの長はアラビア語を完全に理解し、当時の学問センターであるイスラム文化に深い敬意を表しているというではないか!それだけではない。彼はローマ教皇を馬鹿にした態度を示すのにはばからず、いままでイスラム世界を蹂躙してきた愚鈍で狂信的なフランクとの一体感などほとんど持っていない人物なのだ!
アル=カーミルは「赤毛で頭は禿げ、近視であり、もし奴隷だったらディルハイム銀貨で二百枚の価値もないだろう」と当時のイスラム年代記作者が評した風采の上がらぬフリードリッヒに、百年の知古を得たような感動に襲われた。こうしてスルタンと皇帝はアリストテレスの論理学、霊魂の不滅、宇宙の起源についてお互いの学識を披露する書簡を取り交わすことになる。
アル=カーミルにとって聖地エルサレムは日頃から不仲のアル=ムアッザムの領地の一つに過ぎない。弟の謀反を抑えるにはこの地を平衡感覚に優れた大知識人のフリードリッヒに治めてもらうのに如くはない。こうしてスルタンと皇帝は交渉を重ね、フリードリッヒはついに一戦も交えずに聖地エルサレムを奪還したのである。
フリードリッヒはエルサレムに入城し、エルサレム王の戴冠式を挙行する。その際、同行した司祭たちはフリードリッヒが破門の身であることを理由に彼の頭上に王冠を載せることを拒んだ。そこでフリードリッヒは自らの手で王冠を戴いた。そして呆気にとられている司祭たちを「馬鹿めが!」と冷笑するだけであった。そんな彼も一人の司祭が福音書を持ってモスクに入ろうとするのを見たとき、アラーの神に対するなんたる不敬か!と激怒したのだ。
つまりフリードリッヒは新たに得た自分の王国をキリスト教一色に染め上げようとする気など毛頭なかったのだ。彼は諸宗教の共存、多元的価値の共存を許したのである。宗教的統一はいらない。政治的統一があればよい。どうしても同化できないものは「外部」のまま「内部」に取り込めばいいのだ。思えばこのような柔軟でしなやかな吸収力があればこそ古代ローマ帝国は世界帝国でありえたのである!
(「神聖ローマ帝国」菊地良生 p111-112)