reponの忘備録

「喉まででかかってる」状態を解消するためのメモ

自分探しって言うな!

「原因はうまくいかないときにだけある」
ジャック・ラカン

2008-02-20さん

この本の内容というのは、この本のなかの一文で象徴されています。

身も蓋もない言い方をするなら、自分探しの旅とは現実逃避のことだ。

完全に勘違いしていました。やられました。

以下、自戒を込めて書きます。


まず、自分探しは「自分探し」と括弧にくくられるべきです。

そんなものは存在しないからです。


これは、「自分探し」→「フリーター」→「パラサイト」→「ひきこもり」→「ニートと繰り広げられた、マスコミの扇動商品なのです。

内藤朝雄さんが「ニートって言うな!」で解き明かした、マスコミの造語の一つです。

それが、1周して戻ってきた。なんとも悪質な「リサイクル」です。


これらの商品に共通しているのは、「社会の不安を抑圧したもの」である、と言うことです。

少子高齢化の中、正社員が減って、世代間格差も広がって不安感が広がっているが、それを賃金増などによって打開することがほとんど不可能だと社会全体が悟ったとき、その結果から無意識のレベルで目をそらすために、抑圧が働き、「原因」を作り出したのです。


社会で承認されている(またはそう自身が感じている)人は、「自分探しなんかしているから、若者の雇用は不安定になるんだ」「いつまでも自分を決められないからこういうことになるんだ」とうそぶき、爽快な気分になれます

スッキリするために、「自分探しという病」を告発してくれる本を求めます。


社会的に承認されていないと思っている人(実際に安定した職業に就いているのにもかかわらず)は、ひたすら内省的になり、「自分がわからないのでこんな風になってしまったんだなぁ」と自己嫌悪に陥り嘆きます

そして、「自分探しという病」を直してくれる本を読み漁ります。


この「不安を解消し、また呼び起こす」商品を、マスコミは作りだし、それを売って儲けます


かくして、本来問題にされなければならない若年者の雇用不安や、労働法が踏みにじられている労働現場は放置され、抑圧されるのです。


これは庶民のアヘンです。


自分探しなど無い。あるのは、マスコミが作り出した「自分探し」という、不安解消の商品だけ。具体的な問題の解決がうまくいかないから、その「原因」を作り出しただけ。

そして、「自分を決定する」ことなども、実は出来やしない。出来もしないことを「原因」として挙げるのは、自分自身のアイデンティティを保つために過ぎない。

ある結果は、複雑に絡み合った諸原因の複合であり、単独の「原因」など、空想の産物に過ぎない。

「自分」というのは、常に更新され、定まることが無く、手を伸ばしたらその分だけ遠くに去っていく蜃気楼のようなもの。

「自分」を決めることは永遠に出来ない。出来るのは、生きていく算段を組んでいく、そのことだけだ。それだって、どんな風に転ぶかわからない。


不安は常について回る。その不安を、安易な単一の原因、「物語」に回収されないことが大切なのではないでしょうか?