<貧困>とは何か〜湯浅誠「貧困襲来」を読む その2
の続きです。
「年収100万円でも普通に暮らしている人がいるよ」という意見がありました。
そこで、貧困とは何かを考えてみたいと思います。
<貧困>とは、社会からの構造的な排除である
<貧困>とは、単なる「低所得」のことではない、と湯浅さんは言います。
それは、一度はまると抜け出せない蟻地獄のようなものです。
同じ低所得でも、頼れる家族がいるのとそうでないのとでは、まったく条件が違います。
企業の正社員として現時点で低所得なのか、不安定な派遣社員やフリーターなのかではまったく違うのです。
そこで、湯浅さんは、<貧困>の物差しとして、まず「5重の排除」を掲げます。
それは、
- 教育課程からの排除
- 企業福祉からの排除
- 家族福祉からの排除
- 公的福祉からの排除
- 自分自身からの排除
です。
このことは、日本型の福祉が、ヨーロッパと違い、公共事業と企業福祉に公的福祉の代替をさせていたことを勘案するとわかりやすいです。
日本型福祉社会
日本は、企業と家族が、福祉の担い手でした。
社員寮や住宅手当、扶養手当などが企業から支払われ、それによって生活が成り立ってきました。
また、困窮したときにまず頼るべきは家族でした。
制度として、ヨーロッパと違い日本は、まず頼るべきは公的機関ではありませんでした。
だから、この5つの排除は連鎖的であり、かつ、時系列的です。
教育課程からの排除
まず、教育課程から排除されると、日本的社会福祉を受けるための条件である「企業の正社員」への道が閉ざされてしまいます。
企業福祉からの排除
そして、派遣やパート、フリーターという身分では、様々な手当や企業福祉から排除されてしまいます。
労働組合にも入れません。
派遣先では「人材さん」と呼ばれ、人件費ではなく物品費に計上されます。
同じ仕事をしていても、同じ人間として扱われず、人間関係からも排除されてしまうのです。
家族福祉からの排除
家族が支えなければ一人では生きていけない社会は、正常であるといえない。
と湯浅さんは言っていますが、その通りだと思います。
「パラサイトシングル」などという言葉が一時期はやりましたが、親に身を寄せなければ暮らしていくことが難しい事情があるのです。
また、「中年子持ちワーキングプア」が増えていると湯浅さんは指摘します。
相次ぐリストラによる失業や、そもそも正規の仕事に就けないまま老いていったという事情があるのでしょう。
家族が丸ごと「地盤沈下」を起こしている状況があるのです。
公的福祉からの排除
そして、企業福祉にも家族福祉にも頼れなくなった人たちが本来すくい上げるべきは公的福祉なのですが、公的福祉の側は、この間の構造変化に対応していません。
まず、企業福祉や家族福祉に頼れ、と、困窮した人をその窓口から排除しようとします。
この背景には、日本の再配分が、公共事業などによって行われてきたという事情もあると思われます。
日本型福祉国家の独特な再配分のやり方として、公共事業などで自治体に金をまいて雇用を作り生活を保障していた面がありますね。それが自分たちは企業から賃金を得ているのであって、国の世話にはなっていないという感覚につながってる。間接的な再配分だから経済的に自立しているという幻想が維持されやすい。それに対して欧米では直接、家族ないし個人単位で配分をしている割合が大きい。
「VOL 02」p11
本来は、今こそ公的福祉の出番なのに、「まず仕事に就きなさい」「家族に頼りなさい」と「日本型福祉」を言い立てること。これが「公的福祉からの排除」だそうです。
自分自身からの排除
そうやって追い詰められていった先には、「自分自身からの排除」、全ては自分の責任であって、自分がこんな人間だからこうなったんだという自己への責めとあきらめがぽっかりと口を開けて待っているわけです。
<貧困>は、このように「5重の排除」を要因に成り立っています。
さて、5重の排除によって人は<貧困>へと追いやられるのですが、この<貧困>とはどのような状態か。
それを次回は考察してみたいと思います。
続き
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