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<貧困>とは何か〜湯浅誠「貧困襲来」を読む その3

貧困襲来

貧困襲来

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の続きです。


5重の排除によって人は<貧困>へと追いやられるのですが、この<貧困>とはどのような状態なのでしょうか。

<貧困>とは「溜め」がないこと

湯浅さんはそれを、「溜め」が無い状態、と定義づけます。


「溜め」、とは、目に見えない、その人を守る膜のようなものです。

胎児は羊水に守られています。そのようなイメージです。


「溜め」があることで、人は

  1. 「溜め」によって外からの衝撃を吸収し
  2. 「溜め」から栄養を補給する

ことが出来ます。


具体的な「溜め」として、湯浅さんは3つあげています。

  1. 金銭的な「溜め」
  2. 人間関係の「溜め」
  3. 精神的な「溜め」

逆に言えば、これらの「溜め」が無いか、非常に少ない状態を<貧困>と呼ぶことが出来ます。


お金がなく、人間関係が弱く、意欲も弱体化させられている……非常に行き詰まった状態、これが<貧困>です。


単純にお金がない、と言うだけの状態ではないのです。


お金が無くても、とりあえず頼れる親がいたり、仕事を紹介してくれる友達がいればなんとかなります。

精神的に安定していれば、少々のことでもなんとかなりますが、「溜め」がないと、慌ててしまう。

五重の排除が折り重なるように生じた結果、「溜め」が全体として小さくなってしまった/小さくさせられてしまった人たちがいる。それが<貧困>の正体である、と私は考えている。
p37

……<貧困>状態にある者が社会で生き抜いていく困難を、味方が頼りにならない状態で、練習もせず防具もつけずにアメリカン・フットボールクォーターバックをやるようなもの……熊のような敵軍の巨漢達が自分めがけて襲いかかってくるのを防ぐものが何もない。そして、一人につかまって倒されたら、一気に数人が上から覆い被さってくる。

アメフトにおける味方のメンバーやヘルメット・パッドは、人生における「溜め」を指している。それのない状態が<貧困>だ。敵軍とは、人生におけるトラブル(失業、病気、そして「貧困ビジネス」)であり、「溜め」の無い人は、一つのトラブルに見舞われれば、次から次へとトラブルを誘発し、一気に身動きがとれない状態にまで追い込まれる……

p196


よく「甘ったれるな!」と活を入れる人がいますが、そういう人に限ってこの見えない「溜め」でぶくぶくふくれていたりします。

たまたま家族にも友人にも雇用にも恵まれたこの人は、自分一人で生きてきたつもりでいます。うまくいっているときほど、「これは自分一人の力で成し遂げたのだ」と思いがちです。

そういう、「一人で生きてきた」と勘違いしている「溜め」でぶくぶくとふくれた人が、「溜め」が無くてガリガリにやつれている人を叱りつけている……そんな光景が良く繰り広げられています。

そして、「叱られた」人は、元々自分を責めているのに、そのことによってますます自分を責め、「自分自身からの排除」の悪循環に陥っていくのです。


湯浅さんは、「溜め」が見えればいいのに、と言います。ほんとうにそうですね。




次回は、<貧困>が可視化しにくいのはなぜかについて考察したいと思います。
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