コミュニケーション・ブレイクダウン
「僕は弱者だ。だから強者であるあなたは僕の言うことを理解するべきだし、理解しないといけない。どうして理解をする努力をしないのか。」
「あなたが何を言っているのかイマイチわからないのだけれど……」
「それは強者の高慢だ。あなたは強者であって、社会的な責任として弱者を理解し、保護し、導かなくてはならないんだ。そのことを肝に銘じるべきだ」
「うーん、僕が強者かどうかはさておき、君はいったい何を言いたいの?」
「だから、社会的な責任として僕ら弱者を理解し、保護し、導けと……」
「あ、いやいや、抽象的なことは良いんだ。具体的に何を言いたいの?」
「それを考えるのがあなたたち強者の仕事だろう」
「そんなこと言われても……」
「それは強者の怠慢だ」
「怠慢だって言われても、わからないものはわからないというしかないじゃない。そもそもオレ強者じゃないし」
「いや、強者だ。だから僕らの気持ちを理解しなければならない」
「だから質問しているじゃない。じゃあどうすればいいのって。それに答えてよ」
「何かと言えばあなたたち強者は、弱者を排除する手段としてそのように『わからないふり』をする。そして問いかけてくる。さも理解をするかのように。そして我々弱者が、弱者であるが故に答えられないと『じゃあ、要求はないんだね』としたり顔で言う。かし僕らは騙されない!あなたたち強者は、そうやって言葉巧みに弱者を排除するんだ!!」
「聴かないなんて一言も言って無いじゃない。むしろ教えて欲しいって言っているんだけれどなぁ」
「それを考えるのが強者だろう」
「だから僕は強者じゃないっての……ていうか、本人が要望することって、その人以外にわからなくない?」
「それが強者の驕りなのだ。強者は弱者を理解し、その要望に応える社会的な責任があるのだ」
「……」
「具体的な政策を立案する能力が我々弱者にあるわけがないだろう。我々は当然の要求として社会による救済、つまり強者が自らの力で弱者を救済するべきであるという当然の理路を申し立てているに過ぎない」
「……金を出せとか、そういう話?」
「汚い!やはり強者は汚らしい!!そのような矮小化した答えしか持てないとはっ!絶望した!!」
「そんなに興奮しないでよ。違うの?」
「問うのは僕らで、答えるのがあなたたちだ。基本的なことをあなたは理解できていない」
「(はぁ〜)」
「まぁ、あなたたち強者が傲慢にも、『わからないふり』をし続けるなら、僕ら弱者からいくつかの言葉を与えてもよい」
「……よろしくお願いします」
「まずあなたは、日頃の行いを悔いあらためる必要がある。そして、不当に搾取した金銭を社会に還元する必要がある。さらに弱者である僕らの声に耳を傾けるべきだ。」
「(それ、ずっと言っているじゃん。ていうか、オレ強者じゃないし)」
「何か言ったか」
「(ビクッ)いいえなにも」
「まったく、最近の強者の傲慢さには呆れて言葉もない。僕たち弱者の気持ちをわかろうともせず、富を一人でむさぼって反省もしない。たまたま得た結果を、あたかも自分たちの努力であるかのように曰い、自己正当化している。弱者の努力を理解せず、『自己責任論』を声高に言い、弱者を更に追い詰めている。その自覚はあるのか?」
「だからオレは強者じゃないし、自覚って言われても困る……」
「逃げるな!!!」
「(ビクッ)」
「自分の責任から逃げるな!」
「(ブツブツ)だから聴いているじゃない……それにオレ、『自己責任』なんて一言だって言ってないし……誰か他の人が言ったことの責任なんてとれないし……」
「口答えするな!」
「(ビクッ)」
「あなたがた強者はそうやって僕ら弱者を踏みつけにしてきたんだ!そのことに自覚的でない高慢さを恥じろ!!」
「……」
「何をすべきか、言ってみろ」
「……弱者を理解し、保護し、導くこと……」
「ほう、ようやく理解できてきたじゃないか。貴様にもようやく自覚というものが出てきたようだな。しかし具体的ではないな。言ってみろ。具体的にどうするべきか」
「……金」
「違うっっ!!!!」
「(ビクッ)」
「だから違うと言っているだろうこの痴れ者が!!」
「(ビクッ)せめて怒鳴らないでもらえませんか?」
「僕ら弱者は全ての権利を貴様ら強者に奪われているのだから、抗議できるのはこの声くらいだ。それさえも封じようとするのか貴様っ!高慢、高慢っ、高慢っっ!!」
「(ビクッ、ビクッ)」
「言葉は僕ら弱者に残された最後の権利なのだ。それすら奪おうとは、強者の驕りは千回呆れてもたりないな」
「(ブツブツ)怒鳴らなくたって聞こえるのに……」
「痴れ者!!!」
「(ビクッ)」
「もの申すこと。これは僕ら弱者の精一杯の矜恃なのだ!それすらも貴様ら強者は踏みつけにするのか!!強者は弱者から富を搾取するだけでは飽きたらず、人間としての誇りさえ奪おうとするのか!そして取り繕った笑顔で、馬耳東風か!!」
「だから、聴かないなんて一言も」
「口答えするな!!」
「(ビクッ、ビクッ)」
「まったく、ちょっとでも隙を見せるとつけ込んでくる。強者というのがどれだけ汚らしい存在かわかる。こいつらは地獄に百万回堕ちても何も変わらないだろう。許し難い人間達だ。出来るならこの手で屠りたい」
「……」
「しかし寛大なる僕ら弱者は、こうやって対話の時間を作ってやっているんだ。君たち強者に弁明の機会を与えてやっているんだ。それを感謝しこそすれ、反抗などとなんとおこがましい」
「はあ」
「お前ら恵まれたものに弱者の痛みがわかるか!」
「だから聴いていると……」
「黙れ!」
「言えっていったのはそっちじゃ……」
「……ずいぶんと反抗的じゃないか。強者は強者らしく、ってことか?え?」
「いや、あの、だからオレは強者じゃないし」
「貴様が強者かどうかはもう決まっていることだ。僕ら弱者がそう認識している以上、そうなのだ。反論はゆるさん」
「……サイですか」
「貴様ら強者がすべきこと、復唱してみろ」
「……弱者を理解し、保護し、導くこと……」
「もう一回!!」
「弱者を理解し、保護し、導くこと!」
「声が小さい!!」
「弱者を理解しっ!保護しっ!導くことっ!!」
「うるさい!!黙れ!!!……貴様威嚇しようとは良い度胸だな!!この場で逝くか?え、逝ってみるか?」
「言えっていったのはそっちじゃないか」
「うるさい黙れ!強者のくせに生意気だ!!」
「そんなこと言われても」
「全然理解できないんだな。何も理解できず富をむさぼる強者がいかに堕落した存在か、天下に知らしめられたな」
「もう帰っても良い?」
「ほら見たことか。そうやって強者は弱者の言葉を何一つ聞かず、コミュニケーションを断絶するんだ。まったくこれは許し難い行為であり、我々は断固として抗議し……」
「(はあ……)」
Led Zeppelin - Communication Breakdown (Live 1969)
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